死神《伝聞》

死神

信号待ちで…

知人から聞いた話です。彼は昔、営業職をしていました。郊外なので、営業先の顧客を回る時は自分で車を運転して赴く事が多かったそうです。

ある時、いつものように営業先を回る途中でよく通る交差点に差し掛かります。赤信号なので一時停車し、信号が青に変わるのを待っていると後方から尋常ではない気配を感じました。

彼は思わず後部座席を振り返るのですが何もありません。気のせいかと思い、前を向いて信号が変わるのを待つのですが気配はなくならず、どうも居心地が悪いのです。

気分も悪くなって来ました。体の後ろ側だけ毛が逆立つような感じがします。

どうしても後ろが気になる彼はバックミラーでちらっと後ろを見てみました。

しかし彼はしばらくバックミラーから目を離せなくなってしまいました。

そこには骸骨の顔に黒いフードを被った何かが運転席に座りハンドルを握っているのです。

馬鹿げている。きっとコスプレか何かに違いない。

彼は強引にそう思おうとしますが、この話は今から30年以上前の話。コスプレは今ほど一般的ではなくキワモノ的な扱いで見られていた頃です。 平日の昼間にその姿で出歩く人が郊外に居るはずがありません。ましてや、ハロウィンで大人が仮装するなんてこともありませんし、そんな時期でもありません。

こういった事に懐疑的な彼は、不気味ではあるもののきっと何かの見間違いか、悪趣味なイカれた奴が変装しているに違いないと思い、真偽を探ってやろうと意気込んで、食い入るようにバックミラーを見ていました。

型落ちの程度が良いとは言えないおそらく中古車。運転席には骸骨の顔の仮面に、薄手の黒いフードを被った怪しい人、(運転しづらいだろうに、よくやるなぁ)、ハンドルを握る手は、普通の人間の手をしている。おやっ? なぁんだやっぱりおかしい奴が変装しているだけじゃないか!

「びっくりさせんなよー、気色悪いなぁ」と気が抜けた彼は、少し嘲ってやろうと骸骨の顔をもう一度じっくり眺めてみます。

ん??

よく見ると骸骨の仮面が透けています、仮面だけでなくフードも透けて見えます。 透けた後ろにうっすらと見えるのは大学生か、あるいは卒業したばかりであろう若い男。 気分が悪いのか険しい表情をしています。ハンドルを握る手にも力が入っているようで、バックミラー越しにでもわかります。

なんだこれは!俺がおかしくなったのか? いや待て、あれは変装ではなく…重なっている?

混乱していると、いつの間に信号が変わっていたのか、クラクションを鳴らされ我に帰りました。

急いで車を発進させ直進するのですが、後ろの骸骨もこちらに続いてきます。気味が悪い彼は適当な駐車場を見つけて立ち寄り、落ち着くまで一息つく事にしました。

ややあって落ち着いた彼は、気を取り直してハンドルを握り、元々伺う予定であった客先へ向かい始めました。 

(さっきの奴はもう行ったよな。気持ち悪いから遠回りしようかなぁ)

と考えながら車を走らせると、平日の昼間なのに道が混み合ってきて、あっという間に渋滞に巻き込まれました。

車の渋滞

横道も無かったので、そのまま渋滞にのまれて少しずつ車を前に進めていると、辺りが次第に騒がしくなって来ました。 どうやら前方で事故が起きている様子です。

今日はツイてないと、辟易しつつ、またトロトロと車を走らせます。やがて交差点の信号が見えて来ました。

そこで事故が起きているようで、緊急車両が集まり物々しい雰囲気の中、警察官が交通整理しているのが見えます。回り道になってしまうが致し方ない。 彼は左折してどこかで電話を借り、先方へ詫びを入れよう、と考えていたそうです。

そして交差点に入り、警察官の誘導に従って左折しようと進んだ時、大破した1台の乗用車と前方が潰れたトラックが目に入りました。 

乗用車の方は原型を留めていない状態でしたが、彼には

あの骸骨が乗っていた車だ!

とわかったそうです。

運転していた若い男性が気掛かりではありましたが、あの事故の様子では助かるとも思えず、彼は努めて考えないようにしていました。

数日後…

彼は事故のあった道を極力避けて通らないようにしていましたが、その日は急ぎの用件で止むなく、あの道を走っていました。

事故の時は左折した交差点を直進すると、嫌でも目に入ります。

そこにはやはり花が供えられていたそうです。

彼は心の中で合掌し、その前を通り過ぎました。

それから彼は、なぜか交通事故の直後の現場を目撃したり、事故が発生する瞬間に居合わせたりする事が頻繁にありました。道路に限らず、駅や、工事現場でもありました。

凄惨な事故を度々目の当たりにしていた彼は次第に気分が沈み、傍目にもわかるように落ち込んでいったと言います。

1人の同僚が心配して相談してみろと言うので、あの日の出来事と、それから自分の身に起きている事を相談しました。そして当事者の彼は言います。

「なぁ、やっぱり俺は見ちゃいけない物を見ちゃった気がするんだよ、あれはきっと死神だよ。日本にもああいう姿形の死神がいるって事なんだよ。…ところでさ、あそこの鏡越しに俺のことを見てくれないか?俺がちゃんと写ってるか確認して欲しいんだ、なぁ頼むよ」

鏡

…実はこの話、教えてくれたのは死神を見てしまった彼ではなく、彼の相談を受けた元同僚から聞いた話です。

では話の張本人はどうなったのか? 気になりましたが、この話を教えてくれた元同僚の表情から察して、深く聞くことはできませんでした。

この話を見ているあなたも、バックミラーを見る時は死神を見てしまわないように注意してくださいね…

怪談伝聞,恐怖,死神

Posted by 不動