虫の知らせ《体験談》

Mail

仕事中に

いつもの様にデスクでPCの画面と睨めっこしながら、仕事をしていました。お恥ずかしい話ですが、忘れっぽいのもありデスクにはメモ用紙を吊す所があるんです。 PCのメモだったり、スマホにリマインドしちゃえばいいじゃん!と思う方も居ると思います。

でも”そこまで重要じゃないけど忘れたくない事”って有りませんか? 

もっと言っちゃうと、

”別に忘れても何にも困らないんだけど、少し面倒臭くなるなぁ”とか、

”やる意味もやるつもりもないんだけど、頼まれたから、できたらやっとくか!”

みたいな事って結局忘れちゃったりしません??

そういう細々した事をいちいちハードに保存するのも面倒なので、当時は走り書きにしたメモを、紐がついたクリップで留めて、デスク周りの目がつくところに吊り下げていたんです。

話がそれたので仕切り直します。

散らかった机

揺れるメモ

ある時そのメモ用紙がヒラヒラと揺れているんです。空調が効いているので、そのせいだと思っていたのですがどうも気になるんです。 

今まではそんな事はなかったし、何枚かあるうちの一枚だけが、ずっとヒラヒラと横揺れしていました。 気持ち悪いなぁと思いつつ気になってしまい、作業に集中できないので手で揺れを止めてみたのですが、しばらくするとまたヒラヒラと揺れています。

少し腹が立ち、そのメモが吊ってあるクリップごと取って別の場所に吊り下げました。

”まさか揺れるわけがないよなぁ?”

とジーッと見ていました。

すると少しずつ揺れ始めたと思ったら、どんどん激しくなり、今までより一際大きく揺れ出すんです。

それもただの横揺れではなく赤べこの首みたいに上下しながら跳ねるように揺れていました。

赤べこ

気味が悪くなったので、そのメモは取って捨ててしまったのですが、何か胸につかえているような気持ち悪さが無くならないんです。

焦っているわけでもないのに、何故か焦っているような気持ちです。

不安感を残したままにするのも嫌なので、少し抜け出して家族に電話してみる事にしました。

父に電話をして様子を聞くも特に問題なし。帰りに気をつけるように言い電話を切りました。

母に電話をし、同じように様子を聞きますが特に変わった事はなく、気がかりの一つでもあった入院中の祖父も元気だとの事でした。

特に変わった事もなく、安心して仕事に戻って作業していると、数時間後、不意に携帯から着信音が流れました。

液晶を見ると母親からの着信です。

そもそも仕事中にこちらから電話をかけるのも、家族から電話がかかってくる事も滅多に有りません。

嫌な予感がして通話ボタンを押しました。

「もしもし? やっぱり、何かあった? …大丈夫? もしもし? もしもし?」

なかなか話はじめないので、こちらから呼びかけ続けてようやく母が口を開きました。涙声になっています。

『ポチが…ポチがね、しばらく動かないと思って、昼寝でもしてるのかなぁ、それにしてもずっと寝てるなぁと思って気になったから起こしに行ったの。 そしたらポチ、冷たくなってた。 朝は普通に起きてたのに…』

実家で飼っていた老犬のポチが亡くなっていました。 子供の頃から家族のように一緒に過ごし、思い出を作ってきた愛犬。 時には首輪を外して脱走したり、父の言う事以外聞かなかったりとわんぱくな一面もありました。 それでも手が掛かるほど可愛いというか、憎めない奴でしたので、いつかは来る日だとわかっていながらも、とても悲しく、辛いものでした。

柴犬

電話を切って、ポチとの思い出に浸っていると、ふとさっきの出来事に合点がいったような気がしました。

”メモが横に揺れていた様子。思い出してみれば犬が尻尾を横に振っているさまにちょっと似てるな。その後変だなぁと思ってメモを見つめてたら、ぴょんぴょこ跳ねるようにメモが動いたよな。なんか犬が喜んで飛び跳ねてる時みたいだったなぁ…もしかして只の虫の知らせじゃなくてポチがきてたんじゃないか?時間的にもおそらく…”

実家を離れて暮らしている自分に、最後のお別れを言いに来てくれたのかもしれない。そう考えると仕事中だというのに、目頭が熱くなってきてしまい、慌ててトイレに駆け込みました。

柴犬

落ち着いてから、心の中で”今までありがとな”と言ってデスクに戻り、クリップも元の位置に直して仕事を始めたのですが、言わずもがなその日はもう仕事は手につきませんでした。

それ以降はメモがおかしな揺れ方をする事はなく、愛犬が会いに来てくれた最後の思い出となっています。

その数年後、同じように不思議な体験をするのですがそれはまた後日。